TPPで日本の医療はこう変わる 混合診療の解禁と医療格差の拡大

TPPが正式に締結されると日本社会は大きく変わる…以前、「マネーの達人」でもこの観点から「雇用環境の変化」を取り上げました。今回は「医療」を取り上げます。

TPPで混合診療が解禁される



日本への影響では、「混合診療の解禁」と「薬剤・医療器械の承認期間短縮」が考えられます。

保険適用の治療と適用外の治療を一緒に行った場合、保険適用の治療は保険適用外とみなし、全額自由診療となるというのが今のルールです。保険適用と適用外の治癒等を両方同時に行うのが混合診療で、今はこれが認められていません

それを解禁しようというものです

そうなると、保険適用の治療等は保険で、自由診療は実費と、患者さんへの医療費請求を区別することができるのです。

医師会は混合診療の解禁を反対しています。

混合診療を解禁すれば、治療が病院側の都合で行われ、結果患者さんの負担が大きくなるというのが医師会の言い分です。自由診療が多くなるというのです。

反対している理由には、今のままのルールだと、保険適用の治療も自由診療とみなされるので医療機関としては儲かる、別々の請求だと売り上げが落ちるという意見もあると聞いています。本音ですかね。

そう考えると一見、混合診療の解禁は患者さん側には有利と受け止められます


解禁迫るアメリカの本音



もう少しこのことについて考えて見ましょう。

混合診療の解禁を日本に迫っているのはアメリカです。ずいぶん前から、日本に郵政民営化を迫っているころから、日本に混合診療を解禁させようとしていました。民主党政権が廃止するまで存在していた、アメリカが日本に行動を指示する「年次改革要望書」にずっと書かれていました。

年次改革要望書に書かれていることは、日本では実際に行われるといわれ、郵政民営化や確定拠出年金の普及もここに書かれていました。

アメリカが日本に混合診療の解禁を求めるのは、おそらくアメリカの製薬業界からの圧力があると思われます

日本では薬価制度があり、厚生労働省から認可を得て価格がついた薬しか保険適用されません。しかも新薬が認証されるのにかなりの時間がかかります。

それは医療機械も同じです。

医療にかかわる重要な法律が改定されました。今まで「薬事法」と呼ばれていたものに医療機械を含め通称「薬機法」と呼ばれるものになりました。その目的は医療機械の販売承認を早めることにあると言われています。

とにかく商品ができても、厚生労働省がそれを認可しない限り医療機関に販売することができません。その承認期間を短縮しようとしているようです。


新薬の特許期間めぐる攻防



話を薬剤に戻しますが、海外の薬品も日本の薬品同様、厚生労働省の承認を待たなければ日本では販売できません。

それもかなりの長い期間も待つことになります。

そもそもこの薬価制度があるのは、薬剤や医療機械の承認を受け付ける機関を持つことで、いわば天下り機関確保のためにあるとも言えます。

国の承認が必要なものには必ず審査機関がついて回ります。それは厚生労働省の天下り先を確保することにもつながるのです。それゆえ国の認可制度のような仕組みはなくならないのだと思います。

規制の裏にはすべて役人の天下りシステムがかかわっています。TPPは日本に規制緩和を迫るものですから、ある意味、役人の天下り制度と戦うことにもなるのです。

あまりにも長い認可までの時間に業を煮やした海外の製薬会社は、それならば混合診療を解禁させ、保険適用外の薬も使いやすくする環境を作ればいい…という論理なのではないかと考えているのではないでしょうか。

今回のTPPの最大の争点は「知的財産権」の分野でした。それはとにもかくにも、新薬の特許期間を長く保つことだったことは、交渉過程のアメリカの態度で理解できます。

新薬の特許期間が切れない限りジェネリック医薬品は作れません。効能が同じで価格が安いジェネリック医薬品を主に開発販売しているのがオーストラリアや東南アジアの国々です。

アメリカは新薬特許期間を12年、その他の国5年、日本8年を主張、かなり溝が深かったです。どこもこの特許期間を譲りませんでした。

結局アメリカが譲歩して8年をで決着したようですが、実はこれには裏があり、5年経過後に見直しができるようになっているという話を聞いています。あくまでも聞いた話というレベルで、こういうことに裏を取ることは難しいです。想像ですが、アメリカは、表向きは譲歩した形ですが、絶対に新薬の特許期間に関しては譲らないという姿勢を感じます。

それだけ製薬団体は、アメリカ政府への強力な圧力団体となっているのでしょう。

日本のアメリカからの薬剤や医療機械の輸入額は、両方合わせて8300億円強です。アメリカの製薬企業は、トップ10位内に5社もあるそうです。日本の武田薬品やアステラス製薬は10位以下です。

アメリカの製薬業界のターゲットは、まさに日本の高齢者に焦点を絞っていると思われます。


医療格差が生まれる



TPPにより日本の皆保険制度はなくなるのではないかと言われています。

日本の医療制度は国民全員が等しく平等に受けられる優れた制度と思っています。しかも本人負担は、上がったとはいえ、治療費の3割程度に抑えられています。

社会保障制度の圧迫でいつも取り上げられる年金制度ですが、実は年金制度よりも深刻なのが医療制度です。高齢化に伴い、日本の医療制度はもたない、いやすでに破綻しているとも言われています。

現場のドクターの中には皆保険制度そのものが医療業界をだめにしていると言う人もいます。この意見にも立場によっていろんな意味があると思います。

NHKで「破裂」というドラマを放送しています。心臓を若返らせる新療法が開発されようとしているのですが、その療法には、約半年で心臓が破裂する副作用があるという言うのです。ドラマの中の話です。

厚生労働省はそれを知ってあえてその療法普及させ、高齢者人口を強制的に減らすことで、社会保障費用を削減させるというストーリーです。劇中では「ピンピンポックリ」と表現しています。

なぜこのタイミングで、このようなテーマのドラマを放映したのでしょうか。

地方創生が政治テーマになったときには、限界集落再生のドラマが放映されていましたね。政治とドラマの関係は昔からいろいろ言われているところはあります。

話を元に戻しますが、皆保険制度そのものがなくなるかどうかはともかく、混合診療が解禁されると、お金を持っている人とそうでない人との治療格差は生まれることは間違いありません

誤解を恐れずに書けば、お金のない人は保険で、金持ちは自由診療で高度な治療を受けられるという社会になるのです。よく効く薬は海外製で保険がきかない、すぐに治るものは保険がきかないということが日常茶飯事になるのでしょう

それがアメリカの言う資本主義なのです。日本が皆保険制度を持たないアメリカと同じ社会になるのです。(執筆者:原 彰宏)

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