社長だった父が負債を抱えて死亡…負債相続時に気をつけること

 父親が経営者である場合、莫大な財産の相続とは逆に、負債を相続しなければならない場合もあります。負債は勝手な負担割合の決定ができませんが、債権者との合意がある場合に、事業承継者が相続人全員の同意と署名捺印を元に、負債を受け継ぐことが可能です。しかし、全員の同意と署名捺印が無いと、相続が争続となる場合があるので注意が必要です。

社長である父の死後に待ち受けていた巨額負債


 父親が経営者である場合、莫大な遺産を相続できる場合もあれば、逆に負債を相続しなければならない場合もあります。

 遺産の分割では、有効な遺言書などが無い場合、プラスの財産については、相続人全員が合意して分割割合を決定することができます。

 しかし、マイナスの財産、つまり負債については、相続人全員が合意しても、勝手に負担割合などを決定することはできません。

 それは、返済能力の乏しい一部の相続人に負債を引き継がせることで、債権者が損害をこうむる恐れがあるからです。

 もちろん、債権者の側から一方的に債務の相続人を指定することも許されません。

事業承継者が1人で負債を受け継ぐ場合にやるべきこと


 負の遺産を相続する際の原則は、「相続人全員が法定相続分に応じて」承継する形が取られます。

 しかし、例外はあります。

 債権者、これは多くの場合は金融機関である場合に、
  • その借金が亡くなられた方が営まれていた事業上の借入金である
  • 事業承継者が親族など相続人の一部である(例:長男)
  • 事業承継者が負債の全額を引き継ぐことを金融機関と合意する
 となれば、事業承継者が負の負債を相続することが可能です。(※もちろん、事業の損益状況にも因ります。)

 この合意・契約は、他の相続人を負担から免除する契約とすることが一般的で、債務を引き継ぐ相続人だけではなく、免責される他の相続人も承諾して署名捺印し、印鑑証明や自分の戸籍抄本・住民票などを添付する手続きを取ります。

 自分が債務者から除外されることを、良しとしない相続人がいる“かも”知れないからです。

 事業を受け継ぐ立場にあるならば、相続を受ける権利を持つ人に、もれなくこれらの事実を周知する必要があります。

署名捺印漏れや「知らなかった」が招く悲劇


 もしも『これ怪しくない?署名捺印しないでおこう。』などと言って引き継ぎ(=免責)に承諾しないでいる人がいたり、相続人の一部へ周知が行われないでいると、将来大変なことが起こる可能性があります。

 例えば、将来、引き継いだ相続人が不払いとなった場合には、署名捺印しなかったがゆえに、金融機関から“自分の法定相続分に応じた負債額”の支払いを請求される、なんてことになる可能性があります。

 これらの事実を知っていれば、免れる借金もありますし、遺産分割協議の際も変に不信感を持たず、円滑に話合いを進めることができます。(執筆者:行政書士 泉つかさ法務事務所)

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