映画「君の名は。」の大ヒットに貢献したプロデューサー・川村元気氏の企画法

 2016年末現在、観客動員数1500万人、国内興行収入200億円を突破する大ヒット映画と言えば、読者の皆様もご存知の「君の名は。」です。映画が大ヒットとなった背景には、プロデューサーを務めた川村元気氏の企画法が大きく貢献しています。その企画法においてベースとなる「発見」と「発明」という2つのキーワードがどう活用されているかご紹介します。

幅広い層に受け入れられた邦画「君の名は。」


 こんにちは。ジェネシスコミュニケーションの松尾です。

 昨年(2016年)の邦画のうち、8月に公開されるとすぐに人気を集め、年末になっても客足がさほど衰えなかった映画が「君の名は。」です。

 あなたはもうご覧になりましたか?

 同映画のターゲットは10代~20代の若年層ですが、結果的には幅広い層に受け入れられています。

 シニア層の中には、1950年代に大ヒットした「君の名は」のリメイク版だと思い込んで、映画館に足を運んだ人もいたようです。(私の両親もそうでした笑)

 2016年末現在、「君の名は。」は観客動員数1500万人、国内興行収入は200億円を突破しており、今後、海外でも次々と公開されていくことから、世界合計では、『千と千尋の神隠し』(国内308億円)を超えて過去最高の興行収入を記録する可能性もあります。

「君の名は。」プロデューサー・川村元気氏の企画法でベースとなる「発見」と「発明」


 さて、『君の名は。』については、あの美しいアニメーションを生み出した新海誠監督に大きな注目が集まっています。

 一方で私は、過去最高の興行収入を上げるのではと予想されるほどの大ヒットとなった背景に、企画・プロデュースを担当した川村元気氏の貢献も大きいのではないかと思います。

 川村元気氏と言えば、「電車男」を始め、「告白」「悪人」「モテキ」といったヒット映画を担当したことで知られます。小説家としての才能も発揮しており、『世界から猫が消えたなら』は120万部に達しています。

 川村氏は、新海監督が着想した「君の名は。」の原案に対し、脚本段階で“どのような物語の構成にすれば世界に受け入れられるか”という視点でアドバイスを行っています。

 川村氏が具体的にどのようなアドバイスをしたのかを知ることは難しいのですが、2015年5月に、夕学五十講(慶応丸の内シティキャンパス主催)の講師として川村氏が登壇した際、彼の基本的な「企画法」について語っています。

 夕学五十講にて、川村氏が語った企画法のキーワードは「発見」と「発明」です。

 「発見」とは、日常の生活の中で人が感じるちょっとした「違和感」や、「新たな見方・考え方」を発見し、それを企画のネタとすることです。

 これは、人々にとっては当たり前になっているけれど、「実はこうなんじゃないですか」と指摘されると「確かにそうだね」と多くの人がうなずくようなもの。

 すなわち、人々の集合無意識に埋もれてしまっているものを掘り起こすプロセスが「発見」です。

 ただし、発見したネタだけで企画しても成功することはなかなかないと川村氏は考えています。

 発見したネタに対して「様々な切り口=レイヤー」を重ね合わせて、厚みのあるストーリーを作り上げていく、「発明」のプロセスが多くの人に受け入れられるためには必要だと。

 すなわち、ヒットする作品を生み出すためには、「発見」と「発明」の両方のプロセスが必要だと川村氏は主張しています。

「君の名は。」に見いだされる「発見」と「発明」


 では「君の名は。」の場合、「発見」と「発明」とは何だったのでしょうか。

 新海氏や川村氏のインタビュー記事などからの推定で書かせていただくと、まず、男性と女性が出会い、いちど男性が女性を失うけれど、再び出会う、というオーソドックスな「ボーイ・ミーツ・ガール」のコンセプトを基本レイヤーとして採用したのが「発見」でしょう。

 新海氏によれば、こうしたシンプルで直球の恋愛ストーリーが最近は少なく、大衆が渇望しているのではないか、という読みがあったようです。

 この読みはズバリ当たったわけですが、「ボーイ・ミーツ・ガール」の基本レイヤーに、彗星による災害からの救済という別のレイヤーを加えることで、『君の名は。』のストーリーは深みのあるものとなり、幅広い層に受け入れられ、かつ、何度でも見たくなる映画になったと考えられます。

 また、人気バンド「RADWIMPS」の音楽を映画の中心に置いたことも、「君の名は。」の魅力を高めたレイヤーの一つだと言えます。あれだけ音楽が前面に出た映画は今までほとんどなかったはずです。

 実は、同映画の封切り直後からの立ち上がりの良さには、RADWIMPSファンが寄与していると言われていますが、RADWIMPSファンにとって書き下ろしの4曲が含まれた「君の名は。」は絶対に見逃せない映画だったのだろうと思います。


 これら多層的なレイヤーを重ね合わせた「発見」により、ストーリーに厚みが加わり、結果として多くの映画ファンを虜にしたのは言うまでもありません。

 さて、川村氏は日ごろから、「時代の気分」について人一倍考えています。

 時代の気分とはすなわち「集合無意識」のことですが、2016年11月に出た3作目の小説『四月になれば彼女は』のテーマを決めるに当たり、現代には「大人の恋愛小説」がほとんどないということを発見しています。

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 そして、実際に30~50代の男女100人以上にインタビューしたところ、熱烈な恋愛をしている大人が殆どいないことがわかったのです。

 そこで、そもそも恋愛しないことを前提とした男女が、恋愛感情に向き合うとどのような展開になるかを意識して執筆されたのが『四月になれば彼女は』です。

 果たして、川村氏の最新作となるこの小説もヒットするのか、楽しみです。

Photo credit: Kanesue via VisualHunt / CC BY(執筆者:松尾 順)

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