JASRACvs音楽教室〜著作権巡る対決の法的な勝者はどちらか?

 先週、音楽著作権の管理団体JASRACが、音楽教室から著作権料(演奏料)を徴収することを検討しているとの報道がありました。 これに対して、河合楽器やヤマハをはじめとする7つの音楽団体は訴訟も辞さない構えを見せています。著作権法の解釈でどのような食い違いが生じているのか?現行法における勝者はどちらか?わかりやすく解説いたします。

JASRACが音楽教室から著作権料の徴収を検討


 こんにちは。 弁理士の渡部です。

 先日、音楽著作権の管理団体JASRACが、音楽教室から著作権料(演奏料)を徴収することが検討されているとの報道がありました。

音楽教室から著作権料を徴収方針…JASRAC

日本音楽著作権協会(JASRAC)が、ピアノなどの音楽教室での楽曲演奏について著作権料を徴収する方針を固めたことが2日、分かった。

教室側は反発しており、紆余(うよ)曲折も予想される。

著作権法は、著作物を公衆に対し演奏する「演奏権」は、著作者が専有すると定めている。JASRACはこの規定を根拠に、これまでカルチャーセンターや歌謡教室などから著作権料を徴収してきた。

読売新聞:音楽教室から著作権料を徴収方針…JASRAC(2月2日付)
 目を引く内容ですが、記事の内容が少し分かりにくかったので、今日は「JASRACと音楽教室は、一体どんな論点で争っているのか?」について、わかりやすく解説を加えます。

論点は著作権法「演奏権」における「公衆」という言葉の定義


 著作権法では、楽曲を演奏する権利として「演奏権」が定められています。

 演奏権は具体的に、「公衆に聞かせることを目的として楽曲を演奏する場合に、著作権者の許諾を得なければならない」ということを定めています。

 著作権者は、著作権料を支払うことを条件に楽曲の演奏を許諾します。

 演奏権は、楽曲の著作権者(作詞者や作曲者)が持っていますが、楽曲の著作権者から委託を受けたJASRACが、著作権者に代わって著作権料を徴収します。

 ここで、問題となるのが「公衆に聞かせることを目的」という点です。

 カルチャーセンター等は、公衆(社会一般の人々)に聞かせるために楽曲を演奏しているとされてきたので、これまでJASRACに著作権料を支払っていました。

 これに対し、音楽教室は、先生が生徒に聞かせるために楽曲を演奏していたものの、著作権料を支払わずにすんでいました。

新たに徴収を検討しているのは音楽教室での演奏。

生徒や教師が他の生徒の前で練習、指導するが、JASRACはこれらも「公衆の前での演奏」にあたると判断。来年1月から徴収を始めたいとしている。

読売新聞:音楽教室から著作権料を徴収方針…JASRAC(2月2日付)
 ところが、これにメスが入ったというのが今回の報道の内容です。

 つまり、音楽教室において先生が生徒に聞かせるために楽曲を演奏することは、公衆に聞かせるために楽曲を演奏することになるとJASRACが判断したことから、音楽教室からも著作権料を徴収する方針を固めました。

音楽教室側の「公衆」という言葉の捉え方と著作権法の「公衆」定義に起こるズレ


 これに対し、音楽教室側は反発しています。

全国で約3300の教室を運営するヤマハ音楽振興会の三木渡常務理事は「演奏権が教室内の生徒や先生に及ぶというのは理解できない。文化的な活動にもそぐわない」と話している。

読売新聞:音楽教室から著作権料を徴収方針…JASRAC(2月2日付)
 ここまでご覧いただいた皆様も違和感があるのではないでしょうか。

 そう、その違和感は、生徒が公衆(社会一般の人々)に該当するのか、という点だと思います。

 実はこの原因、「公衆」という言葉に対する一般の認識とは、ちょっと違う内容を著作権法が規定しているからです。

 著作権法では、「公衆」には「特定かつ多数の者を含む」と規定されています。

 私たちが公衆という言葉を聞いたときに思い浮かべるのは、社会一般の人々といっても不特定多数の人を思い浮かべますが、著作権法では、特定多数の人も含まれるとしています。

 つまり、教室からみて生徒のように特定の人も対象となり、このような生徒が数人いて音楽教室が成り立っているのであれば、生徒達は「特定多数の人」である、という考えです。

著作権法の側面から見るとJASRACの言い分に一理ある


 それってちょっと強引なんじゃないの?と思われる方もいらっしゃることでしょう。

 ですが、著作権法が実現したいことを端的にいうと、「他人の楽曲を使ってお金を稼いだら、そのうち一部は著作権料として支払ってね」ということです。

 この線引きとして、営利目的なら著作権料の対象、個人的な利用なら著作権料の対象外というルールにしていて、これを表現するために「公衆」という言葉を使っています。

 音楽教室が個人的な利用であるとはいえませんので、この観点から考えると、売上の一部を著作権料として支払うべき対象になるのではないか、というのがJASRACの意見です。

 最新のニュースでは、河合楽器やヤマハなど7団体が、法廷闘争も辞さない構えを見せていることを伝えていますが、法的な側面から言うとJASRACの言い分に一理あります。

 ただし、JASRAC自体が文科省の天下り問題や、みなし徴収など、多くの不透明な問題を抱えており、今回の問題にも世論が大きな注目を寄せているため、交渉自体は慎重に行なわれるはずです。(執筆者:弁理士 渡部 仁)

【関連記事】