「借金を減らせます」過払い金返還請求ビジネス〜儲けのからくり

 過払い金の返還請求ビジネスのコマーシャルが至るところで放映されていますが、そもそも過払い金の返還請求、過払い金返還請求ビジネスは、どのように成り立っているものなのでしょうか?また、このビジネスにはどんな問題点があり、今後どうなっていくのかについても考えてみたいと思います。

過払い金の返還請求で借金が減らせるカラクリ


 ここ数年、「過払い金は帰ってきます。債務整理の相談は無料」という謳い文句の、弁護士事務所によるコマーシャルが、テレビやラジオなど至るところで放映されてますよね。

 いわゆる、過払い金請求サービスのコマーシャルです。

 まず、そもそも論からはじめると、「過払い金」って何なのでしょう?

 「過払い金」とは,カード会社や消費者金融などの金融業者から、法律上支払う必要が無かったのにも関わらず、債務者が払い過ぎたお金のことを言います。

 お金を貸す業者は、そもそも「利息制限法」と言う法律に基づいてお金を貸す必要があり、その際に定められた金利の範囲は金額に応じて15~20%と決まっています。

 実はこれと似たような法律で「出資法」という法律があるのですが、その法律の中では29.2%という上限金利が定められていました。※

 一般の方にお金を貸す場合に出資法の金利を適用するのは違法なのですが、たとえ民事上は無効でも刑事罰の適用が無かったので、貸金業者のなかには、この出資法の金利に基づいてお金を貸しているケースが多かったのです。

 このような利息制限法の上限金利と出資法の上限金利の差の部分は、「グレーゾーン金利」と呼ばれています。

 つまり、過払い金請求サービスとは、「グレーゾーン金利に相当する部分は払い過ぎなので、金融業者から返してもらいましょう!私達がお手伝いしますよ。」という趣旨のものなのです。

 一般的に消費者金融のような業者と5年以上取引を継続していた場合には、過払い金が発生していると言われております。

 日本国内で消費者金融を利用している人は、なんと9〜7人に1人というデータもあり、これは何やらビジネスのニオイがしますよね〜。

過払い金の返還請求は弁護士のドル箱ビジネス


 とはいえ、消費者金融に借金を抱えていること自体が恥ずかしかったり、

 多く払い過ぎた利息があるということがあるのは分かったけど、どうやって返してもらえるかなんてわからない…

 過払い金を返してもらえる方でも、そのような方が殆どだと思います。

 そのような方をターゲットとしたサービスとして現れたのが、「過払い金返還ビジネス」です。

 弁護士や司法書士などの法律家が、過払い金の可能性がある人に対して、「代わりに返還請求しますよ!」と持ちかけます。

 債務者の委任を受けた後は、代理人として消費者金融に過払い金請求をし、戻ってきたお金の何割かを成功報酬として受け取ります。

 過払い金返還請求では幾つか有名なところがありますが、たとえば、A法律事務所という事務所の売上実績を見てみると、こんな感じです。

  2012年11月1日時点の実績:15万4219件、過払い金返済額804億1781万円

 仮に報酬金を回収額の20%とすると、同事務所はこの請求だけで160億円強を稼ぎ出したことになります。

 もっとも、この額は、示談交渉により過払い金を回収した場合の一般的な報酬率を基に計算しているので、裁判になった場合等を踏まえると、報酬金はさらに膨れあがる。

 大手の専門事務所で無くとも、過払い金返還請求をビジネスとして、荒稼ぎをした弁護士さんもたくさんいらっしゃいます。

 日本貸金業協会によれば、全国の消費者金融などの業者が返還した過払い金総額は2008年がピークで約1兆円、2014年度は約3千億円だったようです。

 ピークと比較すれば市場は縮小していますが、弁護士などの法律家が20%の手数料で回収していたとすると、年間600億円の報酬額が弁護士等の手数料として上がっていたということになります。

 これは相当なビジネスの規模ですね。CMやチラシをバンバンうっている理由も良く分かります。

トラブルも多くビジネスとしては収束方向へ…


 ただ、これだけビジネス規模が大きくなってくると問題も少なくありません。

 あまり知識や経験のない専門家に依頼すると、債務整理手続きなどで金融業者のブラックリストに載ってしまうという話もあるようです。

 また、実際の返還請求の事務手続きは、書類さえ揃えば、誰でも出来てしまうような内容と言われています。

 弁護士などが実際に動かなくても、事務員レベルで処理できてしまうため、途中でトラブルになってしまうケースもあります。

 知り合いの弁護士の中には「この程度の仕事で20%も成功報酬をとれない」と言っている方もいました。

 また、過払い金請求をする法律家のコンプライアンスも気になるところです。

 関東信越国税局では、平成20年における「過払い金返還請求ビジネスに対する実態調査」を公表しています。

 社会的な注目や関心の高い事案に対して的確に調査を実施していくことは極めて重要であり、各種情報の収集・分析に努め、重点的に調査に取り組んでいます。

 今回、最近マスコミに取り上げられている過払い金返還請求ビジネスに係る実地調査の事績を関東信越国税局で取りまとめました。

 その結果は、以下のとおりです。

・ 調査件数 67件
・ 非違件数 57件
・ 申告漏れ所得金額 7億円
・ 追徴税額(加算税含む) 3億円
・ 重加算税賦課件数 4件
・ 1件当たりの申告漏れ所得金額 1,098万円
・ 1件当たりの追徴税額(加算税含む) 423万円

 調査67件に対して非違件数57件ということは、約85%の弁護士などの法律家が申告を誤っていた(過少に申告していた)ということになります。

 法律の専門家と言われる弁護士ですが、税法には詳しくないようです。

 また、「20%以上の金利をとるのは違法だ!」と声を高らかにあげて金融業者に請求するのはいいのですが、自分たちも「返還した金額の20%の報酬をとりますよ~」と言うのは、倫理的にどうなのかなぁというところもあります。

 ただし、平成19年に出資法が改正され、また過払い金返還請求の時効が10年ということを考えると、そろそろこの「過払い金返還請求ビジネス」は賞味期限切れが近づいてきました。

 これらのビジネスで荒稼ぎした法律事務所が、次にターゲットとするモノは何か気になるところです。

※貸金業法は平成18年に改正され、現在では出資法でも上限金利が20%となりました。(執筆者:鈴木 一彦 (すずき かずひこ))

【関連記事】